僕ときみの、ありふれた恋
ニヤニヤしている若菜を無視して、そろりと体育館に入る。
なんだかんだ体育館の中にはギャラリーがたくさんいて、バスケ部派とバド部派に分かれている。
バド部って運動部の中ではマイナーな部活だと思ってたけど、案外そうでもないらしい。
顔だけで言えば、バスケ部より整ってる人は多いんじゃないかな。
若菜と私はするすると人の間を抜けて、バスケ部とバド部の仕切りのところまで行った。
「あ、立川くん今日は端っこのコートだ」
若菜の指さす方を見ると、アップをしているのか、ゆるやかなスピードで打ち合う立川くんともう1人の男の子。
「立川くん・・・なんか、イメージ変わるね」
「んー?」
なんか、もっとひょろっとしてるかと思ってたけど、しっかり鍛えられた体つきだ。
ユニフォームを纏った立川くんは、なんだかすごく、男の人な感じがする。
「いーちゃん、立川くんって意外と男の人だって思ったでしょ」
「そんなにわかりやすかった?」
「私も初めはそう思ったもん。やっぱりちょっと違うんだなーって」
これは確かに、若菜が立川くんをかっこいいって言う理由がわかったかも。
普段の穏やかさとは全く違う、真剣な表情の立川くんは結構かっこいい。
それでいて、若菜を見つけるとすぐに顔が緩んで、ふにゃっとした笑顔を見せるもんだから、なんというか、もうお腹いっぱいだ。
本来の目的は瀬戸を見ることなんだけど、すっかりそんなことを忘れて、カップルのやりとりに悶えていたそのとき。
「千輝、こっち見ろよ」
悪魔、降臨。