翳踏み【完】
「楽間くんの、言うとおりだね。私が、ぜんぶわるい」


言いきって、整えるように息を吐いた。あの日を境に先輩は変わった。何をしていても私の手を握っているし、まるで見せつけるように人前で私に触れようとする。

それが全て私の言葉のせいだったら、どうやって先輩に謝罪すればいいのかわからない。ただ隣にいるだけでは良くない事は知っている。どうやっても、私がすきになった自由な先輩には戻ってくれなかったから。


「別に全部ってことはないだろ。お前が今そんな顔してんのは夏希さんが悪い」

「そんな顔って」

「幼稚園児みてえな顔」


吹き出すように笑う楽間くんがまた私の髪をぐちゃぐちゃに撫でまわした。まるでずっと前から知っている友達みたいに笑ってくれる。はじめの頃、見た目だけで怖い人だと思った自分を叱りつけてやりたい。

笑う私に「微妙にマシんなった」と言う。先輩の周りには、本当に素敵な人がいると思った。


「お前が悪い部分もあるだろうが、今更だろ。終わったことをウダウダ言っても仕方ねえし、これからお前が、どうしたいかじゃねえの」


当たり前のように言われて、胸に刺さったような気がした。やさしく響く言葉が道を照らしてくれる。同じところで絡まっていた糸がほどけるみたいだと思った。


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