彼が冷たかった理由。
「やだ」

僕は咄嗟に断っていた。
やっと手に入れた好きな人。

やっと知ることのできた好意。

手放したら、僕の頑張りが消えてしまう。


「僕だって距離を詰めすぎた。
多少わかってくれるかもって...

お前を、過信してた」

ハハッ、と、焦燥の笑みが漏れる。
今更焦ったってもう遅い。

「嫌ってなんかない。
むしろ、僕は愛してる」

遊具から降りて、ブランコに近寄る。
ずっと俯く彼女の背中に、そっと手を当てた。

「今の席だって、先生に頼み込んでお前と隣にしてもらった。
下駄箱だって隣にしてもらった。
志望校だって教えてもらって、お前と同じにした」

僕はお前のためならなんでも出来ると思う。

「もう冷たくしない、だから」

「......」

「だから、優愛。
僕の手、まだ繋いでて」

前に回り込んで、しゃがんで、彼女の顔を覗き込む。
彼女の顔は涙に濡れてぐちゃぐちゃだったが、それでも、とても綺麗だった。
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