私が聖女?いいえ、悪役令嬢です!~生存ルート目指したらなぜか聖女になってしまいそうな件~
 日本で作られたゲームだけあって、設定は西洋風だが習慣は日本の習慣が適用されている。王族はいるがそれほど厳密なマナーはなくフランクで、治安は極めて良い。だからこそ、平民のヒロインが貴族子息とのデートを気軽に楽しむことができるのだ。

 『白い花が咲くころに』通称『ハナコロ』は、乙女ゲームの中でも異色の存在だった。王道の王子様や騎士、魔導士などが攻略対象者のベタでテンプレなゲームなのだが、エンディングが異様なのだ。何しろ、どの攻略対象と結ばれようとメリーバッドエンディングになる。要するに、手放しでハッピーエンドと喜べるエンディングはない。どこか歪な愛が成就される。

 ちなみに、攻略対象と結ばれない方のエンドはすべてヒロインが刺殺される正真正銘のバッドエンド、友情エンドもできない。全ての攻略対象の好感度を同じだけ上げると、攻略対象全員に刺される鬼畜仕様である。メリバかバッドの二つに一つなのだ。

 夢のない乙女ゲームが過ぎるでしょ?

 イリスは遠い目をした。

 しかし、作画が神がかり的に綺麗であることと、メリバを求めるコアな層から圧倒的な支持を得ていた。無論、転生前のイリスもその一人だった。

 美しくも悲しいエンディングと、やり込められる悪役令嬢の苦悶の姿が恐ろしいほど綺麗に描かれており、不謹慎にも正直萌えた。

 ヤンデレ監禁王子と、モラハラ調教のドS騎士、それに禁断の恋のサイコパス魔導士のエンディングはどれも幸せにはなりきれなくて、その辺りが勧善懲悪やテンプレハピエンに飽きていたイリスに刺さったのだ。

 先ほど見た夢は、最後までやりこんでいたトゥルーエンドと呼ばれる『千年の眠り』ルートだ。相当苦労したのを覚えている。そして、クリアしたエンドが先ほどの夢。だれも幸せにならないじゃない、と当時も叫んだ。

 しかしだからと言って、不満があったわけではない。その時はそのシナリオに大満足だった。

 真実の愛こそ、メリーバッドエンドにある。至高の恋は報われない。そう豪語するくらいには。

 いや、メリバは好きよ? 好きだけど、それってフィクションだからでしょ? 現実が辛く苦しくても、もっと報われない人もいるんだって涙するのがいいんでしょ? 現実のほうが辛いとか、絶対絶対嫌なんですけど!!

 イリスは緑色の縦ロールを引っ張ってみる。鏡の中のイリスもまた、縦ロールを引っ張る。離せば弾力をもってボヨヨンと跳ね戻ってきた。

 間違いなく、鏡に映っているのはイリス自身だった。あの、ドラマチックでバイオレンスな世界に転生してしまったのだ。

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