五年越しの、君にキス。


「梨良、ありがとう。そろそろ終わるから、お客様の対応はもういいよ」

飲食の終わった食器をキッチンに下げようとしていた私に、伊祥が笑いかけてくる。


「もう終わりなら、最後まで手伝うけど」

「大丈夫。梨良には他にしてもらいたいことがあるから」

「してもらいたいこと?」

「うん、俺は最後に来ていただいたお客様に向けて挨拶をしないといけないから、それを下げたらテラスに来てくれる?」

「わかった」

接客以外のお手伝いっていったいなんだろう。

首を傾げる私の頭をそっと撫でた伊祥が、優しい目で微笑みかけてくる。

周りにたくさんの人がいるというのに、伊祥が醸し出す空気は、この場に私たちふたりだけしかいないみたいに甘い。

恥ずかしくなって目を伏せると、伊祥が「急いでね」と言葉を残して、テラスのほうに歩き去っていった。


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