五年越しの、君にキス。

気まぐれに楽しんでいるように見せかけているだけで、彼が動くときにはだいたいちゃんと真面目な理由がある。

思えば、学生のときの伊祥もそうだったかもしれない。

課題の提出で私が家で篭りっきりになっているときに、あちこち出かけて遊び回っていると思ったら、市場調査をしていつのまにか完璧なレポートを仕上げていて、驚いたことがあった。

成功のためにちゃんと努力をしているのに、それを努力だと周りに気付かせずにやってのけるところが、伊祥のすごいところだと思う。

「私はあんまりセンスないから、正直よくわかんないけど……」

食器を見ている伊祥の横に並んで、個人的に好みなベージュがかったシンプルなものをひとつ手に取ってみる。

「あぁ、梨良が選びそう」

そう言って、手元の食器を覗き込むように顔を寄せてきた伊祥が、すぐそばで笑う。

視線を上げた彼のライトブラウンの瞳が、優しくそっと細められる。

まるで私を愛おしむみたいなその眼差しに、左胸の奥がぎゅっとした。



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