五年越しの、君にキス。


団子屋さんとのお取引が今月いっぱいで終わると知ったら、早苗さんはきっとがっかりするんだろうな……

何があっても優しい笑顔を絶やさない、早苗さんの顔を思い出してしょんぼりと肩を落とす。

店のために、私ができることが何かあればいいんだけど。

歩きながら考え込んでいると、突然後ろから腕をつかまれた。

柳屋茶園の仕事着でもある着物の袖の上から、指が食い込みそうなくらいの強い力でつかまれて、恐怖を感じる。

「梨良?」

それと同時に、確かな聞き覚えのある懐かしい声に名前を呼ばれて胸が震えた。

恐る恐る振り向いたそこにいた男の顔を見た瞬間に、恐怖とは違う別の感情が私をゾクリとさせる。

「やっぱり、梨良だ」

形の良い綺麗なアーモンドアイに、色素の薄いライトブラウンの瞳。あの頃と変わらないそれと、あの頃よりも少し大人びた整った顔。

懐かしげに目を細めながら笑いかけられて、もう五年も前に自ら手放した彼の熱を思い出した。

今頃、こんなところで会うなんて……

焦りと緊張と、もう忘れたはずの感情に、彼の前で動揺を隠せない。

つかまれた腕を振り払って、その場から今すぐ逃げ去りたくなった。


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