キミだけのヒーロー
突然サユリの名前が出てきたことに面食らった。

いや、何よりも今一瞬のうちにそこまで頭の回るちぃちゃんに驚いていた。

この子は本当に色んな人のことばかり考えているんだな。

自分と相手だけでなく、その向こうにいる他人のことまで。


「やっぱりな。ちぃちゃんは、色んなこと難しく考えすぎるねん。自分のことだけじゃなくて、その周りの人の気持ちまで色々。まぁ……そこがちぃちゃんの良いとこやけどなぁ」


普通はここまで他人のことばかり考えると相当疲れるもんだけど、彼女の場合、きっと無意識にやっていることなんだろうなぁ。


オレはちぃちゃんに、そんな気を使う必要はないと伝えた。

彼女は納得してくれて、ようやく携帯番号を教えてくれようとした。


だけどさっきまで部活をしていたオレは携帯を持ってなかった。


ちぃちゃんは鞄の中からスケッチブックを取り出して最後のページを破ると、そこに自分の携帯番号とアドレスを書いてくれた。


オレはそれをジャージのポケットにしまった。




ちぃちゃんと話せて良かった。

正直者がバカを見るとか、勝ち組がカッコイイなんて言われているような世の中で、彼女みたいな存在は貴重だ。

オレなんかが心配しなくても、きっと彼女はそのままでいるんだと思う。


そして、オレもどうあがいたって、オレでしかないんだ。

サトシにもシィにもヤマジにもなれない。

だけど、それでいいんだってそう思えた。
< 130 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop