キミだけのヒーロー
その翌日。


「ねぇ、このタオル……ケンジの?」


母親が不思議そうな顔をしながらタオルを差し出す。

昨日ユニフォームと一緒に洗濯籠に入れておいたのを洗ってくれたらしい。

オレはタオルを受け取って自分の部屋に行った。

ごろんとベッドに横になり、タオルを眺める。

表には小さなイチゴの刺繍。

そして裏側のタグには、やはりうっすらとだが、“キリノノリコ”という文字があった。


「キリノ ノリコ……」


オレはポツリと呟いた。

N中との試合は今後もあるかもしれない。

いつか返せたらいいな。

起き上がってベッドから降りると、行き先のなくなったタオルをたたみ、クローゼットの奥にしまい込んだ。



だけどその後、オレが“キリノノリコ”に出会うことはなかった。


そして、季節は移り変わり

いつの間にか“キリノノリコ”のことも、タオルのことも


オレの記憶からは薄れていった。

< 19 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop