キミだけのヒーロー
キャッチボール
放課後、サッカー部の練習を終えたオレは荷物を手に取ると、着替えもせずにジャージのまま誰よりも早く部室を飛び出した。

走りながら考える。

――愛の力ってすげー。

まさに、パワー・オブ・ラブ!
(って、英語で言ってみただけやん。しかもカタカナですが……)


今日のオレはアホみたいに張り切ってたし、それに応えるかのように体もよく動いた。

今試合をすれば、ハットトリックも夢じゃない気がする。

サユリがいてくれたら、何でもできるんじゃないか?

そんな気分にすらなった。



急いで自転車置き場に行くと、乗るのももどかしく感じ、走りながら自転車を押して正門へ向かった。

門柱の陰にほんの少し見える、グレーにエンジのチェックのプリーツスカート。

間違いなくS女の制服だ。

オレはためらいもなく声を掛ける。


「サユリ!」


その瞬間、門柱からピョンと飛び出してこちらを振り返る彼女。

その笑顔を見ただけで、オレの心臓はドキンと跳ねた。

今日はオレの部活が終わってから、一緒に帰ろうと約束をしていたのだ。

サユリの家とオレの家はここからだと真逆の位置にあるのだが、そんなの全然構わない。

オレにとっては、サユリの家まで続く道がどんな場所よりも魅力的なデートコースに思えた。


「乗る?」


愛用のママチャリの後ろを指して、二人乗りをしようとサユリに提案した。

ところが、サユリは首を振って乗ろうとしない。


「……いて帰りたい」


「え?」
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