ドキドキするだけの恋なんて

タケルは ” 7時に待ってる ” って 言ったけど。

定時で上がった私は 6時過ぎには 渋谷に着いてしまう。


渋谷駅は 大学生の頃から 工事をしていたけど。

まだ 今も 工事は 続いているようで。


たった3年しか 経っていないのに。


変わっていく景色は 私達と同じ。

もう 元に戻ることなんて できない…


ファッションビルを 少しブラブラして。


早いと思いながら 

私が 待ち合わせ場所に 行ったのは 10分前。


井の頭線の 改札口に続く 階段の下。

私達が いつも待ち合わせを していた場所に

ぼんやり スマホを見る タケルがいた。


「タケル…早いじゃない?」

寝坊のタケルは いつも 来るのが遅くて。

あの頃は いつも 私が 

タケルを 待っていたのに…


「あっ。うん…行こうか?」

タケルは 少し照れた笑顔を 私に向ける。


この顔が 好きだった…


忘れていた気持ちを 思い出してしまい

私は 胸が苦しなる。


「どこ行くの?」

精一杯 普通の顔をして タケルに尋ねる。

「んっ?すぐそこ。お店 予約しておいたから。」


タケルは そっと 私の肩を 押すように抱く。


タケルの 自然な動作に 圧倒されて。

でも私は そっと タケルから 身を引く。


「あの…?馴れ馴れしいんですけど?」

「ヘヘッ。いいじゃん。久しぶりに 会ったんだもん。」

「良くないでしょ?誰かに 見られたら 誤解されるから。」


「へぇ…あず美 そんな事 気にするんだ?大人になったなぁ。」


タケルは 笑いながら 言ったけど。

離れた私を 引き戻そうとは しなかった。


 





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