ドキドキするだけの恋なんて

そら豆のスープは 冷製で この季節に ぴったりで。


鱸のソテーは マスタードソースが 効いていて。

蒸暑い季節でも 爽やかに 食べられるように。


広すぎない店内は 照明も音楽も センスが良くて。

とても 居心地の良い空間に なっているけど。


どうしてタケルは こんな店を 知っているのだろう…?


タケルにも 私の知らない時間が 過ぎている。


何もなかったように 時間を戻すことなんて できない。



「あず美… 良い女になったなぁ。」

牛フィレ肉の ソテーを 食べ終わって。


デザートが 運ばれてくると

タケルは しみじみと 私に言った。


「ちょっと。まさか ワインに酔ったわけじゃ ないわよね?」


さざ波のように 押し寄せる 切なさを 逃したくて。

私は 全てを 冗談に してしまいたいと思う。


今日 タケルと 会ったことさえも…


すごく美味しい フレンチを ご馳走になって。

そのまま 別れたよ、何も ないまま…って。


まるで 食い逃げのように。


深刻な話しなんて したくない。


だって… やっぱり 無理だって思うから。


このまま 空白の4年間を 消して。

よりを戻すことなんて できない。



「俺 あず美と別れて ホントに 辛かったんだ。」


タケルは 私の目を 探るように 覗き込む。


「それは 私のセリフ。タケルには 雅代さんが いたじゃない。」


「雅代とあず美は 全然 違うから。」

「そりゃ そうね。私は 絶対 できないもん。あんなこと…」

「んっ?」

「いきなり 私達の前に 現れるとか。」


「あぁ…あいつは 思い込みが 激しいから。」

「そう思わせたのは 誰よ?」


私は 顔を上げて 呆れた顔で タケルを見つめた。










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