ドキドキするだけの恋なんて

「あず美 よく飲みに行ったり するの?」

「ううん。私 あんまりお酒 強くないから。」

「じゃ 仕事の後は 真っ直ぐ帰っているんだ…?」

「友達と 食事したりは するよ?」


少しずつ ワインを 口に含みながら。


運ばれてきた オードブルは サーモンと白身魚の テリーヌ。

「わぁ…綺麗な色。食べるの もったいないね。」


優しい コーラルピンクの 市松模様に

私は 歓声を上げて フォークを取る。


「こうして あず美と 食事するの 久しぶりだな。」


タケルは さっきまでの 続きのように 言った後で

一瞬 すごく切ない目で 私を 見つめた。


「そうね…4年振り。」

タケルの瞳が 苦しくて。

私は 料理に 目を移す。


「4年か…早いなぁ。」

「すごく 長かった時も あったわ。」


自然な仕草で 料理を口に運ぶ タケルは

昔 ハンバーガーを食べていた タケルとは 違う人みたい。



そう言えば 私の誕生日に

おしゃれなレストランで 食事をしたね。


付き合って 半年くらい 経った頃。


いつもと違う 雰囲気に 私達は 落ち着かなくて。

せっかくの料理も あまり味わえなくて。


レストランを出て タケルは

『ファミレスの方が 落ち着くな。』

って言って 笑い合ったね。


今のタケルは ワインにも フレンチにも 負けないね。


私達は もう あの頃のままじゃない…

当たり前だけど。


2人が 離れていた時間は 確実に 存在して。

私達は その間のことを お互いに 知らない。


やっぱり 何もなかったように

戻ることなんて できないよ。


タケルは 私が 苦しかった時間を 知らないし。


苦しみから 立ち直るために

私が どれだけ泣いたかも 知らないのだから。







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