ドキドキするだけの恋なんて

上原さんは 紳士的な距離のまま。


食事の後 近くのバーで 少しだけ お酒を飲んで。

上原さんは タクシーで 送ってくれた。


「ごめんなさい。こんな遠くまで。」

「大丈夫。ここから 俺の部屋まで 車だと 案外近いから。」


上原さんは 鷺ノ宮に 住んでいた。


私は 特に 意識しないで 

マンションの前まで 送ってもらったけど。


後から 考えると 自分でも 驚いてしまう。


無防備…?

ううん。多分 本能が 察知したから。


上原さんなら 安心できるって。


恋愛音痴の 私の 本能なんて 当てにならないのかな。



初対面に近い 男の人と 

寛いだ時間を 過ごして。


もしかして 上原さんと私は 相性が良いのかも…


私が 思い描いていた 恋愛とは 違うけど。

ドキドキとか ワクワクする わけじゃないけど。


ふんわりと 温かな空気に 包まれたみたいな。


「今日は ありがとうございました。ごちそう様でした。」

タクシーを降りる時 私は お礼を言って。


「また 一緒に 食事したいな。誘ってもいい?」

「はい…」

少し照れた顔で 私に言う 上原さんに

私は 躊躇せずに 笑顔で頷いた。


ちょっと 甘い目で 頷く 上原さんに

その夜 初めて 胸が キュンとした私。









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