翠玉の監察医 癒えない時間
ホテルのロビーには、おしゃれなシックなデザインのソファや大きなテーブルなどが置かれている。その時、蘭の目に独特の形の花が目に止まった。鉢植えに入れられ、飾られている。それに気付いた星夜が口を開いた。

「この花の名前は蘭。君と同じ名前の花だよ。その花言葉は優雅、そして美しい淑女。いい名前をもらったんだね。君にぴったりの名前だ」

「私の名前……」

蘭は胸にそっと手を当てる。星夜は蘭の片方の手をそっとつないで言った。

「蘭ちゃんはきっと、これからその名前がもっと相応しい人になる。だから、あの家から離したいんだ」

優しく見つめられ、蘭はまた泣きそうになる。胸にまた温かい感情が流れていった。

その感情の名前を、蘭は知らない。








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