プラチナー1st-
ふと部屋の奥を見ると、主任が腕の時計を確かめてから机の上に置いていたスマホをポケットに入れた。あ、お帰りになるのかな。

鞄を抱えて出口の方へ来る主任に、お疲れ様です、と挨拶する。

「松下、あんまり遅くまで残るなよ? 今日は送ってやれない」

「気にしないでください。今日はもう直ぐ帰ります。主任はお約束ですか?」

聞くのに心臓がちくりとしたけど、こういうのは何度も経験しているから平気だ。

「そう。社長も一緒だって言うから、あんまり気乗りしないけど、そうも言ってられないしな」

「お疲れ様です。主任ならきっと大丈夫ですよ」

「はは、ありがとう。それじゃあ、早く帰ること。お先」

後ろを振り返って言ってくれた主任に対して座ったまま会釈する。パーティションの陰に隠れて主任が見えなくなると、ちょっと寂しい気持ちになった。努めて口角を上げて何でもない振りをする。…主任は見ていないのに。

「だから止めとけって言ってんのに」

ふと言われて振り向くと、和久田が眉間に皴を寄せてふくれっ面している。

「言ったでしょ。和久田くんになんだかんだ言われる筋合いないって。もう放っといてよ」

つんと顔を背けたけど、主任を見送った瞬間に気持ちを逸らされたおかげで、少し胸の痛みが軽くなった。
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