プラチナー1st-



往来で大泣きするという目立つ姿だったのにもかかわらず、帰宅ラッシュだった駅前を行き交う人の波は紗子たちのことを素通りして行った。

最初から敗れる恋だって分かっていて、それでも涙を堪えきれなかった自分が弱いと思いつつ、慰めてくれる和久田に甘やかされている。駅裏の居酒屋に入って騒がしい店内でテーブルを挟んで二人だけになってもぐすぐすとハンカチを濡らす紗子に、和久田は何も言わず付き合ってくれた。

最初に和久田が頼んでくれたウーロン茶の氷も溶けてしまってもう欠片が残るばかり。和久田は自分に頼んだビールに口も付けていない。つくづく人が良いなあと、紗子は思った。

やがてひと息つくと零れ落ちる涙が止まって、改めて正面に居る和久田に向き直ってしまった。…いや、正確にはまじまじと顔は見れないが、涙を拭っていたハンカチはテーブルに置くことが出来た。そして膝の上で手を組む。

「……ごめんなさい、みっともないことに巻き込んで……」

「気にすんな。俺は点数稼ぎだと思ってるから」

和久田の言葉にちらりと視線を上げると、そんなずる賢いことを言っておいて、紗子を見つめる目がすごくやさしい。…恋敵の所為で紗子が泣くことも、和久田くんは許しちゃうんだな。自分だったら出来るだろうか。

「……、………っ」

また、涙腺が緩む。今度は浜嶋に振り向いてもらえない自分を悲しむのではなく、恋敵の為に泣く紗子を受け入れる和久田が切なくて涙が零れる。そんな報われない恋、悲しすぎる。本当に、和久田だったらもっと選べるはずなのに。
そしてやっぱりぐすぐす泣く紗子を、和久田がやさしい眼差しで見つめていた。今度の視線は、嬉しかった……。

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