棗くんのキスには殺意がある


『茉結。キス、ちゃんと応えて』

『っ、っん……』



あつい吐息が絡まって、頭が考える余裕をなくす。

求めていた温かさはもう充分満たされたはずなのに、すき間を埋めるようにいっそう体を密着させてしまうのはどうしてか。


そんな余裕のないわたしを見て、相手はいったん唇を離し、くすりと笑った。




「ねえ茉結、今日どーしたの。 今までにないくらい積極的、」



唇に触れていないあいだも、あやす手つきでわたしを甘やかすこの男。

女の子の扱いに「慣れてる」なんてものじゃない。考えなくとも、どうすれば相手が喜ぶか、体が知っているみたい。




「こーいう茉結はレアだから、いつもよりたっぷり可愛がってやんないとね?」




色素の薄いブラウンに吸い込まれた瞬間に囚われる。

逃げるなよと細められた瞳が圧をかけるから、逃げないよ、と自ら唇を重ねて応えた。






『今のうちに、たくさん可愛がってね』




──────“今は” まだ、逃げないよ。






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