棗くんのキスには殺意がある
………というのが、今から約1ヶ月前のハナシ。
世界でいちばん愛されてるんじゃないかと、本気で錯覚してしまうほどの熱を残していった男から、あれきり連絡はない。
「そろそろ潮時かなあ。ねえ、どう思う?」
ストローをさして、カラン。
ドリンクの氷を崩すと、向かいに座ったときからしきりにスマホを触っていたお姉ちゃんがようやくこちらに目を向けてくれた。
「潮時? ……あー、えっと。オウサカナツメくんだっけ?」
「そう。逢坂 棗クンだよ」
「まだ続いてたんだねぇ。てか、まだ好きだったんだ? おねーちゃんびっくり」
「続いてたもなにも、はじめから付き合ってないんだけどね」
あー、そういやそうだったっけ、と。再びスマホに視線を落としたお姉ちゃんは、妹の恋愛事情なんて知ったことじゃないらしい。
「付き合ってないなら潮時もなにもないでしょ。付き合わなきゃ、別れないんだからさあ」
それでも一応話を聞く素振りを見せてくれるだけで、わたしはかなり救われるから文句は言わない。