棗くんのキスには殺意がある
たしかに、潮時って言い方は違うかもしれない。
名前のついた関係じゃないんだから。
わたしが、勝手に。
相手が、勝手に。
求めるときに求めて、求められたときに応えているだけ。
いかにも後腐れなさそうな関係の中に、実は大きな問題がふたつある。
ひとつは、そのタイミングが重ならなくて虚しい思いをするのはわたしだけ、ということ。
もうひとつは、逢坂 棗の求める相手は、わたしだけじゃない、ということ。
「──────逃げ時、」
口に出してみるとしっくりくる。
そうだ、もう逃げよう。
求められなくなる前に逃げる。
不確定な“次” を、
ひとりで待ちたくないから。