死んだ彼が幽霊を成仏させてみせます!?
誰も、この手が離れる時間が迫っていることなんて考えもしないだろう。


「それに、クレープも食べたよね」


「梓はイチゴで、俺はバナナだっけ」


「うん。美味しかったよねぇ」


ひとつひとつの思い出を噛みしめるように話す。


「それに、成仏も沢山した」


厚彦の言葉に梓は笑った。


「本当に大変だったよね」


特にマミちゃんのときは命の危険まであった。


「俺の我ままに突き合わせてごめんな」


不意に真剣な表情になって厚彦が言う。


その表情を見て不安を感じた梓は時計に視線を向けた。


色々な話をしている間に11時45分になっていた。


(あと15分……)


梓は思わずうつむいた。


厚彦の顔を直視できない。


もうすぐ終わる。


この楽しい時間が終わってしまう。


そう思うと、どうしようもなく苦しかった。


「梓、こっちを見て、笑って」


厚彦に言われ、梓はどうにか顔をあげた。


だけどその顔は苦痛にゆがんでいて、どうしても笑えない。
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