アオハルの続きは、大人のキスから


 再び戻りたくなる私を拒むように、エレベーターの扉を手で押さえてにこやかにほほ笑むベルボーイと視線が合う。もう、逃げられない。

「いらっしゃいませ」

 感じのいいベルボーイに引き攣った笑みを浮かべたあと、その男性に今夜八時半にGMとお会いする約束をしていることを告げ、呉服屋山野井の従業員だということも伝える。

 こちらでお待ちください、とソファーに座るよう促されたあと、彼は会釈をしたのちにフロントへと向かっていく。

 その後ろ姿を見送りつつ、フカフカのソファーに腰を下ろす。

 初めてベリーコンチネンタルホテルにやってきたが、ラグジュアリーホテルだというだけあって高級感に溢れていた。

 ベリーコンチネンタルはこのビルの四十九階から五十三階までを占めている。
 そのうち、客室は五十階から五十三階の三階のみらしいのだが、その客室全部がすべてランクの高い部屋ばかりだと聞いた。

 エグゼクティブ、ジュニアスイート、そしてスイートの三種類だけでエコノミーやスタンダードなどはない。
 徹底してゴージャスな雰囲気を楽しむことを追求しているようだ。

 だからなのだろう。客層を見ていても紳士淑女といった落ち着いた大人ばかり。庶民には敷居の高い場所のようだ。

 ふと、自分の格好を見る。店頭に出るときは、必ず着物を着ることになっているのだが、今日のこの着物はお手頃価格なものだ。

 季節を意識して着た小紋だが、この高級感溢れているホテルでは浮いているように思えて恥ずかしくなる。
 ますます逃げ出したくなるが、仕事なのだからとグッと気持ちを押し殺す。


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