アオハルの続きは、大人のキスから


 草履のつま先を摺り合わせて居たたまれない気持ちをごまかしていると、ふと男性の興奮した声が聞こえてきた。

 顔を上げると、白髪男性がホテルマンに感激しながらお礼を言っている。会話は途切れ途切れだが、こちらに届いてきた。会話は英語で、どうやら日本に観光にきた外国人のようだ。

 白髪の男性は日本に到着後、ネットで見かけて欲しいと思っていた和菓子があったもよう。しかし、ネット記事をスクショなどで保存していなかったらしく、数少ない特徴を頼りにホテルマンに問い合わせをしたらしい。

 ダメ元だったのに、まさに自分が求めていた和菓子を見つけ出してくれた上に予約までしておいてくれた、と興奮気味に感謝している。

 ありがとう、ありがとう、と何度も白髪の男性がホテルマンの手を握りしめて喜んでいる。ホテルマンの顔は見えないが、とても柔らかく優しい安心感のある声がした。

『いいえ、お客様が探しておられたお菓子で良かったです。日本では、知る人が知る名店なのだそうですよ。お客様が喜ばれていること、和菓子店の店主にも伝えておきます。大変喜ばれるかと』

『それなら、あとで一筆したためるから、店主に送っていただけないだろうか』

『もちろんでございます』

 ご機嫌な様子で部屋に戻っていく白髪男性を、綺麗なお辞儀で見送るホテルマン。
 その立ち居振る舞い、彼が持つ雰囲気。どれも目を惹く。その姿は、記憶の奥に眠っていた姿と重なり……

 ホテルマンが顔を上げた瞬間、息を呑んだ。長身でスラリとした体躯、漆黒の髪は後ろに撫でつけられていて、精悍な顔がはっきりと見えた。


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