アオハルの続きは、大人のキスから


 キリリとした眉、高い鼻梁、薄い唇。切れ長な目……どれも記憶の中にいた彼と同じ。
 その場から動くことができずソファーに座り続ける小鈴に、その男性は近づいてくる。

 小鈴は慌てて視線を落とす。だが、一歩、また一歩と綺麗なバルモラルの黒い革靴が近づいてくるたびに、心臓の音がこれでもかというほど高鳴っていく。

「仲濱小鈴さま、お待ちしておりました」

 慌てて顔を上げると、そこにはスーツをパリッと着こなして穏やかな笑みを浮かべている蘭久遠(あららぎくおん)がいた。

 小鈴の記憶にある彼に、大人な色気と落ち着きを加えている。
 だが、間違いない。小鈴の元彼であり、罪悪感をずっと抱き続けていた相手、久遠だった。

 彼の胸ポケットにあるプレートには、GMの文字がある。彼は、このベリーコンチネンタルホテルの総支配人だというのか。

 久遠はまだ、三十一歳。それなのに、ラグジュアリーホテルのGMとは……
 昔から色々な面でデキる人だったが、その力は現在も健在らしい。

 固まり続けている小鈴に、GMらしく落ち着いた様子で名刺を差し出してくる。

「私、当ホテルの総支配人をしております。蘭です」

 小鈴は慌てて立ち上がって頭を下げた。

「呉服屋山野井の仲濱小鈴です。今日はよろしくお願いいたします」

 名刺を差し出す久遠に、「スミマセン、名刺は持っていないもので」と謝りつつ、その名刺に指を伸ばす。

 すると、久遠は名刺を持った小鈴の指に触れてくる。そして、少しだけ小鈴に近づき耳元で囁いてきた。


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