アオハルの続きは、大人のキスから
確かに、ここに仕事をしに来たのだ。昔話をするためではない。
そもそも、久遠は小鈴が椿の代役で来ることを知らなかったはず。それなら、ビジネスライクな態度でこちらも接しなければならないだろう。
いや、待って。久遠はフロントロビーで小鈴を見かけたとき、間違いなく小鈴の名前を言っていなかっただろうか。
そんな疑問が脳裏を過り、ふと視線が捕らえたのは部屋の奥まった辺り。そこには、立派な白無垢が着物ハンガーに掛けられていた。
「素敵……です! あの、見てもよろしいでしょうか?」
好奇心を隠すことができず久遠に伺いを立てる小鈴に、彼は「どうぞ」と柔らかくほほ笑んでくれた。
暗がりに浮かびあがるのは、正絹の上品な生成色。赤ふきの部分に紅の差し色が鮮やかだ。
鶴の柄は相良織りという手作業の刺繍が施されている。とても雅で、着物職人の腕が光っている最高の一品。なかなかお目にかかれないほど気品溢れる白無垢に目を奪われてしまう。
小鈴は、照明を落としている部屋へと足を向ける。
きちんと着物ハンガーに掛けられ、部屋の隅には除湿機が。大事に保管されているのがわかる。
これを見て、どうしてGMが自室に小鈴を招いたのかわかった気がした。ホテルのバックヤードでは着物の保管に適した場所がなかったのだろう。
今回、この白無垢についてなにか話があるのかもしれない。その場に正座をし、白無垢を見上げる。
これだけ立派な着物だ。大事に保管しなければならないからこそ、この部屋に干してあるのだろう。じっくりと着物に魅入っていると、久遠が背後に立った。