アオハルの続きは、大人のキスから


 それに、この十年間。彼は恋ができなかったと言っていた。まさか、と思う。それが本当なら、よほど小鈴のことを怒っているのか。もしくは――

「ないない。私のことに未練があるだなんて」

 未練があるのは小鈴だけ。きっと久遠は小鈴を揶揄ったのだろう。勝手に理由も言わず、姿を消した女に苛立ちを覚えていただけだ。

 あれこれ悩んでいる間にも、エレベーターは一階へ。
 慌ててエレベーターから飛び出し、一目散に呉服屋山野井へと足を向ける。

 この件に関しては、間違いなく椿も一枚噛んでいるはずだ。

 そうでなければ、こんな事態になるわけがない。わざわざ小鈴を一人でこのホテルに乗り込ませた張本人は、椿なのだから。

 椿を問い詰めなくてはならないと思う一方、わからないのが仕事の件だ。

 仕事の内容は白無垢を着て結婚式をするなんて意味深なことを言っていたが、あんなことを言って小鈴を困らせたかっただけだろう。ちょっとした復讐のつもりだったのか。

 しかし、久遠と再会する日がくるなんて思ってもいなかったために複雑な気持ちになる。

 久遠はますます素敵になっていたし、なによりラグジュアリーホテルのGMになっていたなんて……

 もう人生が重なることがないと思っていた人との、思いがけない再会。

 嬉しいという感情はもちろんあるが、なにより先ほどの発言の数々が気になり不安が込み上げてくる。

 パタパタと草履の音を立ててモール内にある店へと急いだのだが、すでに店じまいの片付けなどは椿と俊作が行ってくれていた。


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