アオハルの続きは、大人のキスから
山野井の家は、このベリーヒルズビレッジにはない。浅草に本店を構えており、その裏手に住居がある。
しかし、椿は本店である実家にはあまり寄りつかない。父娘喧嘩が勃発してしまうからだ。
小鈴の叔父にあたる、椿の父は呉服屋山野井の七代目当主だ。
本来なら一人娘の椿に家を継いでもらいたかったようなのだが、起業し独り立ちしてしまった彼女には無理だと諦めている様子。
それでも叔父はやっぱりどこかで諦めきれなくて、椿に会うたびに説得するので彼女は実家に帰るのを渋ってしまうのである。
「椿ちゃん! は、離してー!」
それでもなかなか愛の抱擁が止まらず困っていると、どこからともなく手が伸びてきて誰かが助けてくれた。
鉄紺の着物を着流す佇まいは、まさに和風美男子。
切れ長の目、スーッと通る高い鼻梁、低く甘い声。彼を見たいがために、この店に足げに通うマダムが絶えずいるほどの人物だ。
「俊作さん!」
彼の名は、竹之内俊作。山野井家とは遠縁の男性で、呉服屋山野井の番頭見習いをしつつ、このベリーヒルズビレッジ店の店主も務めている人物だ。
俊作が助けてくれたおかげで、ようやく息ができる。呼吸を整えている小鈴の頭を心配そうに撫でてくれつつ、椿を睨めつけた。