アオハルの続きは、大人のキスから
「今日は着物のことについて話を聞きたいって言っていたの。私より小鈴の方が詳しいじゃない?」
「それなら、俊作さんにお願いした方が」
「アイツは今、忙しいでしょ? これ以上、仕事を増やしたらぶっ倒れてしまうんじゃない?」
確かに椿の言う通りだ。俊作は、本店と支店を行き来して番頭の勉強をしつつ、支店の店主としても切り盛りしている。忙しい身の上だということは、傍にいる小鈴が一番よく知っていることだ。
「私がホテルのGMさんに着物についてお話ししてくればいいってことだよね? ところで、GMってなんの略?」
私の質問に答えず、椿ちゃんは捲し立ててくる。
「そう、そうなのよ! さすが、小鈴。呑み込みが早いわ。やっぱり、私の会社に来て一緒に仕事しない?」
「あはは、ありがとう。椿ちゃん。身内贔屓でも嬉しいよ」
「なにを言っているのよ、小鈴。アンタは細やかだし、仕事を完璧にこなす力がある。大学の成績だってすごく良かったし、専攻していた英語なんてペラペラなのに……。海外相手にお仕事しようよー」
「山野井だって素敵な働き場所だよ?」
「でもね、小鈴。アンタはもっと違う世界でも活躍できるのよ。ねぇ、今からでも遅くないわ。私の元で働かない?」
「椿ちゃん」
この件については何度も何度も椿に話している。そして、山野井から離れないことは毎度言っているはずだ。
日頃はあまり見せない強気な態度を見て、椿は天井を仰ぐ。
「はぁ……。うちに恩義なんて感じなくていいのに。私たちは小鈴が好きで、一緒に住んでいただけよ? 気を遣わなくていいの」
「うん、ありがとう。でも、恩だけで仕事を選んでないよ。私、本当にお着物が好きだから。この山野井で働くことができて嬉しいの」
目を輝かせて椿に言うと、彼女は再び盛大にため息をついて小声で呟く。
「だから、うちの父さんが妙なこと考えるんだわ」
「ん? なにか言った? 椿ちゃん」
聞き取れなくてもう一度聞き返したのだが、椿は言葉を濁してごまかす。
「まぁ、そのことはいいの」
「椿ちゃん?」
「あ、ごめん、小鈴。約束の時間が八時半なのよね」
「え? 八時半? もうすぐじゃない」
「そうなの。じゃあ、お願いね。小鈴」
「う、うん。わかった」
約束の時間まで、あと十五分。急いで向かっても間に合うか、どうか。ギリギリだろう。
スタッフ通路を足早で抜けてモールを出ると、目の前にそびえ立つ複合商業ビル〝ベリーヒルズビル〟へと足を向ける。
このビルから出てくる人は皆が皆、ラグジュアリーに富んだ人、もしくは仕事を精力的にこなしている人といったイメージがあり、入ることを躊躇ってしまう。
だが、今回は仕事だ。そんなことを言っている場合ではない。
とにかく急がなくちゃと気後れしそうになるのをグッと堪えてエレベーターホールへと向かう。
運良くすぐに上階に行くエレベーターが到着し、それに飛び乗った。