箱崎桃にはヒミツがある



 あいつ、時間間違えたり、遅れてきたりしないだろうかな、と思いながら、貢は日本庭園で家族とともに桃を待っていた。

 数寄屋造りの料亭の近くだ。

 すると、歩いてこちらに来る人たちが、みんな後ろを振り返っているのに気がついた。

 なんだ? と見ると、淡いピンクで、さらさらした素材のワンピースを着た桃が歩いてくるところだった。

 いつもは、お前、ほんとうにモデルなのか? と問いたくなるくらい、間の抜けた盗人(ぬすっと)歩きをしていたりする桃だが。

 今日は見合いという正式な場だからか。

 ショーのときと同じように颯爽と歩いてきていた。

 ワンピースの素材のせいか、桃の脚の形の良さがワンピースの上からでもよくわかる。

「箱崎桃よっ」

「CMで見るより、実物の方が綺麗ねえ」
と周りの女性客たちが小声で話しながら、桃を振り返り見ていた。

 その様子を見た貢の父、範夫(のりお)は青ざめて言ってきた。

「もう駄目だ……」

 なにがだ。
< 125 / 139 >

この作品をシェア

pagetop