箱崎桃にはヒミツがある
 見ると、桃が中庭を向いたランニングマシンのところにいた。

 細い身体と長い脚。
 ポニーテールから真っ直ぐに伸びた黒髪が印象的だ。

 診察に来たときとは雰囲気がまるで違っていた。

「此処のジムで見たって奴いたが、ほんとうだったのか」
と仁が呟いている。

「……知ってるのか? 箱崎桃」
と貢が言うと、仁の方が驚いた顔をする。

「うちのブランドの服着てもらったりしてるから。
 それにしても、お前が箱崎桃を知ってたとは意外だな。

 彼女、テレビとか出ないショーモデルだし。

 なかなか雰囲気のあるいいモデルなんだが、欲がないからなー。
 やっぱり、この世界、ガツガツしてる奴の方が上に行くから」

 ……適当にモデルやってるニートじゃなかったのか、と思いながら、桃を見る。

 桃は歯医者で暴れたときとは全然違う表情で、黙々と走り込んでいた。



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