箱崎桃にはヒミツがある
 


 昼、桃は屋上庭園のある建物の一階に来ていた。

 お気に入りのイタリアンの店があるのだ。

 いや~、なんだかんだで、ベリーヒルズビレッジの中に住んでると便利だよね。

 美味しいお店が全部近いし。

 そんなことを思いながら、勉強のために何冊か買ってきた雑誌を袋から取り出す。

 うわ、(さき)ちゃん、また表紙だよ~と思いながら、モデル友だちのページを眺めていると、
「すみません。
 相席お願いしてもよろしいですか?」
と女性の店員さんの声がした。

 混んできたようだ。

 あ、はい、と桃が顔を上げると、貢が立っていた。

「……はい」
と桃は繰り返す。

 嫌です、とも言えなかったからだ。

 まあ、此処でいきなりドリルを出してきたり、見合いを始めて、
「ご趣味は?」
とか訊いてこないだろうしな。

 ていうか、この人も見合いしたくないみたいだし。

 そういう意味では仲間かな、という結論に至った桃は、
「どうぞ」
と貢に微笑みかけた。
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