呪イノ少女、鬼ノ少女
「ちょっとー、澪ちゃん!もうボロなんだから、勘弁してよーぅ」

「っ……!」


娘の心配ではなく、ちゃぶ台の心配をする。


「落ち着いてよね。澪ちゃんが、雛なんて構っても仕方ないでしょー?」


澪の中で何かが切れた。

ちゃぶ台を跨いで、茜のくたびれたシャツの胸ぐらを掴んで、力任せに引き寄せる。


「きゃっ…」


台に引きずり上げられるような格好になったおかげて、皿や湯飲みがひっくり返り、その中身が黄ばんだ畳にぶちまけられた。

宙を舞ったお茶の一部は、側でオロオロと見守っていた雛に掛かっていた。


「あーあー」


胸元を引っ張られたままの姿勢で、散乱した夕飯の残骸に気の抜けるような声を漏らす。

そして、ゆっくりと顔を澪の方に向けて、ギロリと睨み付けた。


「……澪ちゃん、流石に怒るわよ」


おそらく、茜の最後の警告。

だが、澪も怯まなかった。

それどころか今一度ぐっと茜を引き寄せて、睨み返してやった。


「私は、もうとっくに怒ってますよっ!」


茜は何も言わず、じっと澪を見ていた。

それから、澪の手を掴んで千切るように引き剥がした。


「チッ。透さんの忘れ形見だからって、甘い顔していれば……」

「何ですって!?」

「あのさー澪ちゃん、かなりウザイって気付いてる?」


まさに一触即発の状態。

タイプは違えど、普段滅多に本気にならない二人だ。

それだけに、一度爆発してしまえばどうなるか……。


そんな物騒な熱気を孕んだまま、夜が更けていくなだった。




*****
< 106 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop