呪イノ少女、鬼ノ少女
「なんといじらしい」

「雛ちゃん!!」


屋敷の中から大太刀を携えた男が、脇に澪を抱えて歩み出てくる。

額から右目を潰して頬に走る巨大な傷。

残った左目は、この世の穢れを詰め込んだかのようにどろりと濁っている。

何年も伸ばしているらしい白い蓬髪に、それとは正反対の季節はずれの真っ黒いコート。


「お前の娘は実に健気だな、馬鹿娘」


茜の記憶にある彼とほぼ違わぬ姿の彼が、数メートル先にいる。

彼女に鬼殺しの技を伝えていた、十数年前と変わらない姿で。


「せ、師匠」


師匠<センセイ>と、自然と口が紡いでいた。

十五の時に、養父の伝手で彼に師事した。

寡黙で厳格な師との間には、僅かな軽口を叩いたくらいの思い出しかない。

だが、それでも黒丞の元で研鑽を積んでいたころの記憶は眩しく輝いている。

懐かしさが胸に去来する。


だが若き茜が敬愛を篭めて、そう呼んでいた男は今ここにはいない。


「変わったね、師匠。まるで別人」

「何年経ったと思っている。人が変わるのにそう時間はいらんよ。ああ、俺はもう人ではないが」


黒丞は澪を下へ降ろし、その首筋に童子切の刃を這わせる。


「ひっ!?」

「この太刀の刃なら力は要らん。重力に引かれるだけで首が落ちる」

「師匠ッ!!」


茜が体に力を篭める寸前に、天草は太刀を澪の首に薄い傷を残して離した。



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