呪イノ少女、鬼ノ少女




一面に畳が敷かれただだっ広い部屋で、女が一人瞑想をしている。


その姿はまさに諺にある通り、牡丹の華のように美しい正座の姿勢。


脇には行灯が二つ立てられているが、明かりは灯されていなかった。

明かりといえば、夜の帳を縫って差し込む冷たい月光だけ。

おかげで、部屋の中は茹だるような蒸し暑さも、幾らかは和らいでいるようだ。


「…」


女は口を真一文字に結んだままの固い表情で、じっと瞑想を続けていた。

長く伸びた前髪は、右目を隠してしまうように揃えられている。

肩の下辺りで適当に切られた髪は、風も無い部屋の中にもかかわらず、静かに揺れていた。


女の瞼の内には、映像が流れている。


――――山々の緑。

――空を流れていく雲。

―――古いあばら屋。

――玄関の引き戸は壊れてしまっているようだ。


「…っ」


女の顔が苦悶に歪んだ。

胸を打つ鼓動が早くなり、呼吸も途切れ途切れになる。


だが彼女は「視る」ことを止めなかった。



―――山の中にある古い無人の家。

――――太陽は頭の真上に見える。

――後ろから駆けて来る足音。


「っ…」


――自分が振り向く。


―――少女と目が合った。


「く…っ、はぁ…」


映像が途切れた。

目を開いてしまったのだ。

明るい映像を見ていたせいで、薄暗いの部屋は光が足らなくて様子が分からない。

女はその場に崩れて、心臓の辺りから競り上がってくる渇きに喘いだ。




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