呪イノ少女、鬼ノ少女
「澪ちゃん、私達は…」

「駄目っ」


狭い居間に雛子の悲鳴に近い声が響いた。


「雛」

「やっぱり、駄目よ…母さん」


雛子はただ「嫌、嫌」と首を振り続ける。


「諦めなさい。澪ちゃんも、もう気付いてる」

「でも、やっぱり澪さんにだけは」


雛子は、泣いていた。

顔をクシャクシャに歪めて、小さな子供のように泣きじゃくっていた。


「決めてた事でしょ?然るべき時には、澪ちゃんに話さないとダメって…」


珍しく見せる母親の顔で、雛子を宥める。

普段は母親らしい事なんて何一つしない茜にも、そのような顔が出来るのだと、場違いながら改めて感心するのだった。


そして、同時に事の大きさにも。


「やっぱり…駄目。だって私、澪さんに…」

「雛子」


ついに雛子はわんわんと大声で泣き崩れてしまう。

もう茜の声も届いてはいない。

ただ澪に嫌われたくないのだ、と何度も何度も繰り返すだけだった。


だから、澪は言うしかなかった。

そうしないと、胸が締め付けられて、はち切れそうだったから。


「聞かないよ」


泣きじゃくる雛子に、そう告げていた。


「え…?」


ピタリと泣きやんだ雛子が、埋めていた涙に塗れた顔を上げる。


「聞かない。雛ちゃんが聞いて欲しくないなら、聞かない」


澪はそう言って、雛子の側まで行くとポケットからハンカチを出し、それで涙を拭ってやる。


淡い桜色をしていたハンカチは、雛子の涙を吸い込んで深い色に染まっていた。
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