【極上の結婚シリーズ】ママになっても、御曹司に赤ちゃんごと包み愛されています
スイートルームに入れる――それは私にとって少し複雑な思いがあった。

けれど決して顔には出さず、「了解しました」と矢野さんに明るく返事し、私は五十三階に向かう。

お客さまがチェックアウトされたあとの、朝九時から昼二時までが私の勤務時間だ。スイートルームの清掃は一室当たり四十五分と時間配分されていた。

まずは5301号室、インペリアルスイートルーム。

ここはスイートルームの最高峰で、広さは三百㎡、キングサイズのベッドが四台もある一室限りの格別な造りになっている。

そして私個人にとっても、特別な部屋だった。

「失礼いたします」

ただ今こちらに長期滞在中のお客さまは、どうやらここで生活しているらしく、毎朝八時前には出勤されると聞いているけれど、念のために声をかけてからスペアキーで入室した。

それにしても一泊百万円を軽く超える部屋でホテル暮らしをするなんて、一体どれほどのお金持ちなのだろう。

きっと私にはこの先一生縁のないような富裕層の方なのだろうなと想像しつつ、部屋の奥に向かった。

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