その背は美しく燃えている【中編】
 けれど、凪は一向に返事をしなかった。ただ透明な沈黙が二人の間にしんしんと積もって行く。

 乃木高校の制服を着た彼女はスカートのプリーツを遊ばせながら窓辺に近づき、窓枠に腰掛け、佐野の目をまっすぐと見る。彼女の細められた両目は、憤りと熱と悲しみに生きる美しい獣だった。



「あれは私の」



 有無を言わせぬ主張であった。佐野は「そっか」とだけ答え、それ以上の追求はしなかった。

 お互いに寒さの伝わるサッシに腰掛け、言葉を交わしていくうちに、いつのまにか時計の針は六時半を迎えていた。そろそろ帰った方がいいだろう。目的の課題は見つかったし、お腹も空いた。凪も佐野の言わんとしていることを察したのか、胸のあたりで緩く手を振っている。



「今日はありがとう。急に押しかけてごめんな」


「いいよ。結構楽しかったし。もし良かったら……」


「おう。また来る」



 やった。小さく呟かれた喜びを余すことなく聞き取る。それだけで胸の奥が暖かくなる感情に、佐野は戸惑いを覚えながら、美術室を後にした。
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