崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 その日、夜明け前に目が覚めてしまったアイリスがいつもよりも早目に訓練場に行くと、そこには先客がいた。

「こんな時間に誰かしら?」

 アイリスはまだ薄暗い訓練場の中央へと目を凝らす。
 暗いのではっきりとは見えないが、とても体格のよい騎士のようだ。いつもアイリスがするのと同じように仮想の敵を相手にしているようで、一人で剣を振るっていた。

 ──凄いわ、綺麗……。

 なんて美しい剣捌きなのだろう。アイリスは暫し、その姿に見惚れた。
 これまでの人生で見た中で、最も美しい剣技だと思った。

「誰だ?」

 アイリスの気配に気付いた男が動きを止め、こちらを見つめる。どこかで聞いたことがある声だった。低く落ち着いているのに、他を圧倒するような威圧感がある。

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