崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 アイリスは他の師団の先輩騎士だろうと思い、少し緊張の面持ちでピシッと姿勢を正す。

「第五師団所属のディーンです」
「第五師団のディーン?」

 男がゆっくりとこちらに近付いてくる。薄暗い中、アイリスはその姿を見上げた。
 騎士団は背の高い男が多いが、アイリスよりも頭ひとつ分背が高いこの人はそんな中でも長身に当たるだろう。
 近付いてきたその人の顔をはっきりと認識したとき、アイリスは息を呑んだ。

「レオナルド閣下!」

 軍服の下に着る白いシャツと黒ズボンという楽な姿で剣を振るっていたのはこの国の副将軍であり、皇都騎士団の団長であるレオナルドだった。

 アイリスを始めとする全ての皇都騎士団員にとって、レオナルドは憧れの存在だ。
 まだ二十代半ばという若さでありながらハイランダ帝国の重要な地位に就き、圧倒的に強く、皇帝からの信頼も厚い。

 そんなレオナルドが夜も明けぬ早朝から自主練習しているとは思いもよらず、アイリスは慌てて頭を下げた。

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