呉服屋王子と練り切り姫
 それから奈良の高級料亭で昼食をとった。なるほど少し回復してきた胃にまた豪華絢爛な食材を詰め込むと、どうやら胃がパンクをおこしたらしい。いつもはこんな高級料理、絶対に食べられないんだから……少しの意地が、私の胃に更なる負荷をかけたのは言うまでもない。

 ハイヤーで移動する道中、私は胸の下あたりをさすっていた。が、そんなもの気休めにしかならない。高級な帯が邪魔をして、私の手の感覚なんて到底胃にはたどり着かないのだ。奈良公園で興奮したのかゲーン夫妻はぐっすりと眠っていて、今なら言えると思った。

「甚八さん、私……」
「すみません、そこのドラッグストアに寄ってもよいですか?」

 私が言う前に甚八さんはドライバーに声をかけ、車を降りて行ってしまった。そして戻ってきた手には、胃薬とミネラルウォーターの入ったレジ袋が握られていた。

「ん。飲め」
「ありがとうございます……」

 再び動き出した車内で、私は彼に手渡された胃薬を飲んだ。彼は窓枠に肘をついて、何を考えているのかよくわからない顔で流れていく景色を見つめていた。
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