呉服屋王子と練り切り姫

老舗旅館の粋なはからい

 やがてハイヤーは嵐山の旅館に到着した。古き良き日本の伝統を重んじたような風貌の旅館は、とても趣深い。ゲーン夫妻も大喜びだ。

「ココ、トテモニホンをカンジル! イイネ!」

 ゲーン夫妻はそう言いながら、旅館の従業員全員が頭を下げる門の向こう側へと早足で入っていく。

「何をぼさっとしている、お前も行くぞ」

 ぼうっとしていると、私の腰をさっと抱いた甚八さんが耳元でそう言いながら、私を旅館の中へ導いた。

 思っていた通り、旅館の中は貸切だ。「おいでやす」と仰々しく頭を下げた女将さんにきょどり、わたわたしている私の横で、甚八さんは涼しい顔をしていた。こういうの、慣れてる人なんだな。お坊ちゃまだもんな。私は彼と自分の住む世界が違うことを、改めて思い知らされたのだった。

 女将さんは、ゲーンさんの奥さんと私を呼んだ。甚八さんとゲーンさんはフロントの畳の椅子に腰かけて、「イグサ、イイニオイ!」と談笑していた。

「モナカチャン、ユカタ、カラフル! ドレニスル?」

 奥さんは色とりどりの浴衣を前に、上機嫌でどれを着るか選び始めた。私はブロンドの髪の奥さんには明るい色が似あうな、と思った。しかし、彼女ははさっさと自分の色を「yellow!」と決めてしまい、私の浴衣を選び始めた。

「ンー、イマノキモノはシロイカラ、イロミアルノガイイネ!」

 そう言うと、ゲーンさんは真剣に桃色か赤色かで迷い始めてしまった。私はただ苦笑いしてそれを見つめるしかなかった。
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