呉服屋王子と練り切り姫
 その翌日、私には何もなかったかのような日常が訪れていた。

「愛果、おはよ」
「おはよ、玲奈」
「もう大丈夫なの?」
「ふぇ?」
「この前具合悪くて早退しちゃったんでしょ?」
「あ、ああ、そうだった! 心配かけちゃってごめんね?」

 いつも通り私より少し更衣室に入ってきた玲那は、私の顔を覗き込んだ。甚八さんのことを言わないところをみると、特に何も聞いていないらしい。私は繕いながらも彼女に話を合わせた。そのまま着替えをすませて歩きながら玲那と話す。

「愛果が2日も休んじゃって、将太君がお店出てくれたんだから」
「そうだったんだ……。将太君にもお礼言わなきゃ」
「本当、あの子愛果の為ならってなんでも引き受けちゃうからねぇ」
「そうなの?」
「え、知らないの? だって将太君は愛果の……」
「玲那さん、おはよっす!」

 その時、突然現れた将太君が玲那の肩をたたいた。結局、将太君は私の何なのか聞けなかった。
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