呉服屋王子と練り切り姫
 スーパーのカートを押しながら、野菜売り場を歩く。甚八さんはきょろきょろともの珍しそうに周りを見ながら、私の後ろをついてきた。

「なあ、これは何だ?」
「それはホウレンソウです。」
「じゃあこれは?」
「そっちは小松菜」
「そうか……区別がつかないな」
「はぁ……」

 先ほど、部屋を出た甚八さんを引っ張って、夕飯は私が作るから食材を買いに行きましょうと彼を説得し、少し歩いてスーパーまでやってきたのだ。

「好きなものとか苦手なものがあったら教えてくださいね」
「好きなものはエスカルゴのオイル煮。嫌いなものはキャビアだ。あのぷちぷちした触感がどうも苦手で……」

 聞いた私がバカだった。そんな食材がスーパーで手に入るはずがない。仕方ないので、何種類かのキノコをカートにつっこんんだ。

「それは……マツタケか?」
「マツタケがこんなに小さいわけないでしょう! これはぶなじめじ!」

 甚八さんは、自分の範疇外のことにはとことん無頓着だということを、思い知らされた。
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