呉服屋王子と練り切り姫

将太くんはまるっと全てお見通し

 店舗に戻る前にお手洗いに行き、涙の跡を消し去る。またお店に迷惑かけちゃったなぁ……そう思いながら、鶴亀総本家にそうっと入っていく。

「ただ今戻りましたぁ……」

 小声でそう言うと、奥から大将が飛び出してきた。

「愛果ちゃん、やったな! キミのおかげですごい売れ行きだ」
「はい?」
「さっきの怪しい人、東丸宮商事の社長さんだったんでしょ? そんな人とつながってるなんて、なんで教えてくれなかったのよ!」

 玲那まで私の背中をばしばし叩く。

「いったい、何がどうなって……?」
「この店の和菓子全部買ってったアイツ、この店に毎月大口の注文入れるってさっき言ってきたんっす」

 いつの間にか隣にいた将太君がそう言った。 
「ところで愛果さん……」
「何?」

 将太君はじっと私の顔を見つめる。しかし、急にふいっと逸らしてしまった。

「何でもないっす」

 彼はそう言うと、お店の奥へ戻っていった。
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