嫌わないでよ青谷くん!
一章・マイナス値100

なんだこいつ!



 山崎直子という女を説明するのならば、「人気者」。この一言で事足りるであろうことを直子は自負している。

 成績良し、容姿良し、体育はあまり得意ではないが、それを補うコミュニケーション能力がある。加えてチャラい。かといって先生との仲が悪いわけでもない。だから、そこそこモテる。

 何より直子はカーストによって差別をしなかった。普通、邪険に扱われるような人とも直子は自然と話して仲良くなる。必然と直子と連んでいるカーストトップの友人達もその人達を邪険と扱わなくなり、毎年直子が在籍するクラスはいつも平和であった。

 しかしこれは中学までの話。高校での人間関係はまた少し変わってくるはずだ。桜ふりしきる校門をくぐり抜けながら、直子はそんなことを思った。


 入学式は案外はやく終わり、早々と各クラスごとに返された。シワのない純白のブレザーと校舎の古さとちぐはぐな感じで、自分はまだ高校生になり切れてないのだと実感する。地に足がつかない感じのまま黒板に貼り出されている座席表を確認すると、運良く三番目の列の、一番後ろであった。左隣は米田麗奈。女であろう。右隣は青谷……。

 そこで初めて直子はこの学校に来て一番の疑問に出会った。右隣の席の人の名前と性別がまるでわからないのである。「英」とだけしか書かれておらず、「はなぶさ」なのか、「えい」なのか、脳味噌を車輪のように回しても答えが出てこない。生まれて初めて直子は座席表にルビが振ってないのを呪った。

 しかたなく指定された自分の席に着く。いずれ性別不詳の青谷なんとかさんは来るのだから、焦らずその時に名前をさり気なく聞き出せば良い。勿論、読めてないことは悟られずに、だ。

 直子が席に着いた十分後位に、お目当ての青谷らしき人が右隣に腰を掛けた。しかしその姿は直子が思っていたものとだいぶかけ離れていた。

 甘ったるい色をした髪が滑らかな質感を持ってうなじをくすぐっており、時折鬱屈そうに長く伸ばした前髪を耳に掛けている。伏し目がちの瞳はアーモンドのように甘やかでありながら憂いを帯びていて、ため息が出そうなほど美しい。中性的な顔であるにもかかわらず、同年代の子と比べても高い身長は、ギャップとして完璧な比率を保っており、さぞ多くの女性を虜にしてきたであろうことが伺える。
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