嫌わないでよ青谷くん!
「おい、カレーが好きなのわかったから、こっち見ろ」



 不満を前面に押し出した声で類が言った。直子は思考を深い場所から引き摺り出し、カレーから類に視線を移す。



「ごめんごめん」


「お前まじで食べるの好きよな。いっつも食事の時静かになりよる」



 それは直子が中学時代に仲が良かった人からも言われた事だった。図星で決まりが悪くなり、唇をもごもごと動かす。

 類は仕方なし、と言うがごとくメガネの奥で目を細めた。たぶん彼の彼女が彼に愛想を尽かさないのは、こういうところがあるからなのだろう。



「まぁそれはともかくや。青谷と直子どっちから誘ったんや」


「青谷」


「「はぁ⁉」」



 今日一番の煩さだった。食堂いっぱいに声が響き、人々の注目が集まる。直子が二人を睨めば、芽衣は肩を縮こまらさせて意識的に細い声を出した。



「待って、青谷くんってそんな子だった?」


「いやちゃうな。あいつは基本人のことどうでもいい思うとる」


「んな決めつけなくても」



 類に一つ突っ込みを決めて、直子は確かに、と思った。直子から見ても青谷は人間関係に淡白だ。その青谷が理由があるとはいえ自ら女子を誘うなんて、あの時は納得したが、改めて問われると疑問が残る。



「恋の香りだぁー」



 揶揄った口調で芽衣がニヤつく。



「んなわけ。私以外に知ってる女子いなかったんだと」


「でも青谷くんだったら誰も誘わずに余ったとこ入りそうじゃん」



 頷きかけて、やめる。いらぬ期待を抱き始める心に蓋をするように、直子はスプーンに大盛りのカレーをのせて、思いごと流し込んだ。
< 18 / 18 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

その背は美しく燃えている【中編】

総文字数/18,227

恋愛(純愛)25ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop