嫌わないでよ青谷くん!

青谷くん不思議すぎ問題



「いやぁー。まさか青谷とお前がペア組むとは思わんかったわ」


「私ももっと明るい奴と組むと思ってたぁ」



 昼休み、食堂にて、直子の目の前に座る二人は口々にそう言った。直子はスプーンでカレーを掬いながら「でも」と言う。



「私結構青谷好きだよ」



 変に理由をつけるより、その言葉が一番しっくりくる。形にして改めて納得し、直子は深く頷いた。

 類と芽衣は珍しい動物を見たような表情をして顔を見合わせる。類の口元に運ばれていたラーメンが箸から滑り落ちて汁に波紋をつくる。芽衣は一回、二回、胸を摩って直子を見た。彼女の手に握られたパスタを着たフォークが向けられる。



「それってさぁ、恋じゃなぁい?」



 今度は直子がびっくりする番だった。眉でハの字をつくって首を横に振る。



「人間としてってこと。……でも、好きなだけじゃない。嫌いでもあって、なんかよく分からん」


「……愛憎や」


「馬鹿言わないで類!」



 直子は一喝して長い息を吐き出した。納得いかないのかこそこそ話す二人を置いて、粘り気のあるご飯にルーを絡めて口に含む。辛さに混じる甘いルーが大きく切り取られたにんじんやら、じゃがいもやらと見事に絡まり、うっとりしてしまう。

 口の中にカレーが残ってるままに、水を一気に煽って、もう一度息を吐いた。満足のため息である。


 乃木高等学校の食堂は美味しいことで有名だ。リーズナブルな値段で、ボリュームもあり、食欲旺盛な高校生にとっては嬉しいことだらけである。直子達が食堂に通うようになったのは最近だが、ここが空いている状態は一度も見たことがない。

 そんな食堂で一番人気なのが、今直子が食べているこのカレー。名付けて「乃木特製ウルトラカレー」である。

 贅沢な大きさで切られた新鮮な野菜。香辛料に気を遣った、不純な辛さではないルー。真っ白に膨らんだご飯。それらが纏う湯気に乗って、芳香な香りが鼻をくすぐる。ちなみにトッピングも十円で追加することができ、トマト、チーズ、カツなど、その種類は多岐に渡る。

 直子はトマトと半熟卵を合わせるのが好きで、最近はそればかりを食べている。今日だって崩された卵の黄身とルーがマーブル状になっている。
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