嫌わないでよ青谷くん!
「知ってんじゃんか」


「そんなん大して問題じゃないやろ。そんで、なんでお前青谷に嫌われとるん?」


「とりあえず類はそのエセ関西弁やめてよねぇ」



 芽衣の容赦のない一撃が類に下る。胸を押さえて傷心アピールをする類に目もくれず、直子の肩から離れた芽衣が、雀が歩くような足取りで類と直子の前へと躍り出る。必然的に二人はその場で足を止めた。



「なんで嫌われたかってさぁ、割と人間関係構築する上で重要じゃん?」


「せやな。自分あんま嫌われることないから分からんけど」


「類ー、煩いよぉ」



 血も涙もないとはこのことである。愛らしいものには毒があるのだとあらぬ方向へ思考を巡らせていると、芽衣が一歩直子に詰め寄った。距離が縮まった驚きに、思わず仰反る。



「ならさぁ、直子は何で青谷くんに嫌われたのか知る必要があると思うんだよねぇ」



 何故嫌われたのか。嫌い。その定義とは何であろう。好きの対義語。つまりは……。

 近頃気づけば考えていた事だ。


 芽衣はたじろぐ直子を見て満足げにうなずいた後、一歩下がったついでに一回転して、悪戯に微笑んだ。



「それって青谷くんに好きになってもらったらぁ、もう完璧な直子だよねぇ」


「「……は?」」



 唐突な発言に類と直子は顔を見合わせた。類も訳がわからないと口を半開きにして訴えている。



「待って芽衣。何が言いたいの」


「直子モテるんだから青谷くんに色仕掛けでも何でもして告白してもらいなよ。そしたら直子だって自分が間違ってなかった事証明できるし」



 いつもの口調が外れてハキハキしている。これは悪巧みに頭を働かせている時の芽衣の特徴だ。



「それ今までの話と関連してる……? 嫌われてる理由考えた方が楽だし、そもそも私青谷と仲良くするなんて嫌なんだけど」


「そこまで言う直子って珍しいわー」


「類は黙って」


「直子まで酷過ぎやろ」



 芽衣の考えていることが分からない。彼女は嫌いという感情に対して最もらしい事を語っていたが、おそらく直子が青谷に恋されるまでの過程を楽しみたいのだろう。人の色恋は見ていてスリルがある。

 たしかに直子だって、青谷に告白でもされたら、あの時の苛立ちも発散されるだろうし、その後に思いっきり振るのは気持ち良いだろう。しかしそれは直子が理想とする自分の姿ではなかった。
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