極上の餌
「こういう質問もありましたよ……」
一般的な質問に悩むことなく答える俺に、吉田がご婦人方最大の関心事を代弁するかのように、目を細め笑みを浮かべて質問を読み上げる。
「好きな女性のタイプはなんですか? だそうです」
「女性の、ですか?」
「男性がよろしければそれでも」
「いいえ、女性でお願いします」
「そうですね」
さすがにこれまでの質問と違い即答とはいかない。
吉田が客席に見えない角度で口角を上げるのが見えた。
あの、グロス艶やかな唇が俺を黙らせて喜んでいる。
さっきの色仕掛けからして、その質問、自分で出したんじゃないのか?
司会役らしく落ち着いた服装に見せながら、その実、主張する性格があちこちに見えている。
残念ながら、その手の女性は見飽きている。
「そうですねぇ」
少なくとも目の前の吉田は完全にタイプではない。
では、何がタイプなのか? と聞かれれば、左後方の「あの子」に全神経が集中せざるを得ない。
「ああ、僕、黒のストッキング姿が好きです」
「はあ?」
吉田があからさまにあんぐりと口を開けてあきれ声を上げた。
当然、ご婦人方からもざわめきが湧く。
この年代層に「ストッキング」、しかも、「黒の」、は刺激が強すぎたか?
「駄目ですか? 好きなんだけどな」
「はあ……」
どんな話しにも食いついて話題を広げていた吉田も、さすがに同意とは言えない頷きを見せるしかない。
それでもプロ根性からか、
「タイツでもいいですか?」
と、来たもんだ。
なんじゃそりゃ。
本人も恐らく我ながら無意味な質問をした、と後悔してるだろうに、
「ええ、いいですね、黒タイツ!」
腹の中で笑いながら、明朗に答えてやるもんだからこれまた会場は微妙な空気に包まれる。
「ああ、あと、それから……!」
明らかにまだあるんですか? という表情の吉田に俺は引きとめる手振りを見せる。
「セーターの袖口からちょろっと指先が出ている、そんな女性が好きです」
「はあ……」
「それから……!」
「まだなにか?」
思わず失言にも近い受け答えをしてしまった司会者に俺はしてやったりと腹の中で笑いながら、
「真っ白のコートとか、いいですね」
と俺は言い放った。