QUALIA ー最強総長×家出少女ー
そうして走っていると、会場が目の前に現れた。一万人は収容できるコンサートホールだ。

会場には入れず、外で待っている人もたくさんいて、すでに満員であると分かった。

時計を見る。まずい。18時を五分まわっている。

裏口から中へ入り、飛び込むように受付へ。

私が現れると、厳格なスーツを着た人たちが目を丸くした。

当然だ。足は裸足なうえに血まみれ。髪も乱れ、息もまだあがっている。

「19時から出番の美月琴葉です。受付をお願いします」

奥にいた厳しそうな顔の女が首をふる。

「五分遅刻です。残念ながら、すでにコンクールの規定により失格となりました」

ゾッとした絶望に、足の底から飲み込まれそうになる。

「いやアリツィア殿。不思議なことに、私の時計ではまだ18時だ」

隣にいた一番年上そうなおじさんが言う。

「ですが委員長、規則が」
「いやいや、俺の時計もまだ18時だが?」

もうひとり若い男も言う。アリツィアと言う人は諦めたようにため息をつく。

「ではすぐにご用意を。伝統と格式のある世界で最も格調高いピアノコンクールで、そのような汗臭い格好では許しませんよ」
< 292 / 304 >

この作品をシェア

pagetop